私たちの暮らしを支えるスマートフォンや自動車、家電製品。これらの心臓部ともいえる「半導体」は、どのようにして作られているのでしょうか。半導体の製造には、シリコンウェーハの生成から始まり、精密な装置を駆使した複雑な工程が必要です。
本記事では、半導体の製造プロセスと、それに使われる装置の特徴について解説。また、コスト面や持続可能性の観点から注目される、中古装置の活用についても触れていきます。
シリコンウェーハの製造プロセスは?
半導体を製造するには、まずはシリコンウェーハの製造しなければなりません。
シリコンウェーハとは、現代の半導体産業に欠かすことのできない基盤材料です。その製造は、私たちの身近にある土、砂、石などのケイ素から始まり、高度な技術を経て高純度な単結晶シリコンへと姿を変えます。
まずは、シリコンウェーハの製造プロセスを順番に解説しましょう。
金属シリコンの精製
シリコンウェーハの製造における最初のステップが、金属シリコンの精製です。これは、私たちが普段目にする土や砂、石などの主成分であるケイ石から、半導体材料の基礎となる高純度な金属ケイ素を取り出すプロセスを指します。
ケイ石の主成分は二酸化ケイ素で、天然の石英や砂などに広く含まれます。高品質な金属シリコンを生成する為に、純度の高いものを選ぶのが特徴です。
また、ケイ石の酸素を奪うための還元剤としては、炭素還元剤が使用されます。炭素還元剤は、コークス、石炭、木炭などが原料です。これらの炭素材料も、不純物の少ないものが選ばれます。
シーメンス法で精留
シーメンス法(Siemens Process)とは、金属シリコンから「多結晶シリコン」を精製するプロセスです。1950年代にドイツのシーメンス社によって開発され、現在でも半導体産業における高純度シリコン製造の主流です。
シーメンス法の目的は、金属シリコンの精製で得られた純度98~99%程度の「冶金グレードシリコン」を、99.999999999%という超高純度の「半導体グレード多結晶シリコン(Polysilicon)」へと純度を高めることです。
このプロセスは、次の2つのステップから構成されます。
- トリクロロシランの合成…比較的純度の低い金属シリコンを、ガス状のトリクロロシラン(SiHCl₃)という揮発性の化合物に変換します。この段階では不純物が多く混じっているため、繰り返し蒸留し、純度を高めていきます
- シリコンの析出…高純度化されたトリクロロシランガスと水素ガスを、1100℃まで熱したシリコン棒の表面に供給。高温の表面でトリクロロ知らんが分解・還元され、超高純度のシリコンがシリコ棒に堆積します。
シーメンス法のデメリットは、原料となるトリクロロシランの製造や、高温での反応に必要な設備、エネルギーコストなどが高くなることです。より効率的で低コストなシリコン製造技術の開発に向けた研究が、活発に進められています。
単結晶インゴットの製造
多結晶シリコンを単結晶シリコンインゴットに成長させる工程は、シリコンウェーハ製造の中核であり、半導体デバイスの性能を左右する非常に重要なプロセスです。この工程の目的は、原子がバラバラに並んだ多結晶状態から、原子が規則正しく整列した単一の結晶構造へと変化させることにあります。
トランジスタのような半導体デバイスは、シリコン中に微量の不純物(ドーパント)を添加することで電気的な性質を制御し、電流のオン・オフを切り替えるスイッチとして機能します。この制御を正確に行うためには、シリコン原子がきれいに整列していなければなりません。そのため、単結晶が必要不可欠です。
半導体製造の要となる機械の特徴は?
半導体を製造する工場には、数十~数百台のさまざまな製造装置が設置されており、それぞれ半導体製造の一端を担っています。まずは、製造装置の特徴について解説しましょう。
高スループットが求められる
半導体製造の世界では、絶えず進化する技術と市場の要求に応えるため、製造装置には単なる性能だけでなく、高スループットが強く求められています。スループットとは、システムやプロセスが単位時間あたりに処理できる仕事量やデータ量を示す指標であり、半導体製造においては、装置や製造ラインが1時間あたりに処理できるウェーハの枚数(またはデバイスの数)を指します。
高スループットが半導体製造に必要不可欠な理由は、次の通りです。
量産プロセス性能を確保しなければならない | 半導体デバイスは、さまざまな機器で使用されるため、生産量も膨大である。そのため、高い品質で半導体デバイスを量産できなければならない。 |
高い生産能力がある | 量産においては、単位時間あたりの処理能力がとても重要ある。生産能力が高いと、短時間で多くのウェーハを処理できるため、コストダウンにもつながる。 |
設置面積を効率化する | 半導体工場では、建設・維持に莫大なコストがかかる。工場内に多数の装置を設置することを考えると、装置の床面積が小さい、つまりコンパクトであることは、限られたスペースを最大限に活用するためにとても重要な要素である。 |
電力消費量が小さい | 半導体を製造する装置は、大量の電力を消費する。電力消費量が小さいことは、運用コストの削減に直結し、環境負荷低減の観点からも重視される。 |
安定して稼働し続けられる | 大量の半導体を製造しても、稼働を続けられることは、コストカットや効率化に不可欠。 |
一般的な工業製品よりも高額である
半導体工場に並ぶ数十~数百台もの製造装置は、一般的な工業製品とは一線を画す、超精密機械の集積です。
特に、半導体チップの性能を直接左右するウェーハ上に回路を形成するプロセスの装置には、非常に高い技術的要件が課されており、その結果として一台あたりの価格も驚くほど高額になります。
前工程装置が高い技術レベルを要求されるのは、10億分の1メートルもの微細な世界で、原子を一つひとつ制御するかのような精密な作業が求められるためです。
半導体製造の装置はさらに高騰している
技術的な要求が厳しいだけでなく、製造装置の価格が高騰している要因があります。
最先端の技術を開発するためには、膨大な時間と人材、研究開発費用が必要です。そんな中で利益を生むためにメーカーは、開発にあたるコストを装置に転嫁しなければなりません。
また、半導体製造装置は、一般的な家電のように大量生産できるものではありません。半導体メーカーから注文を受けて製造に入るため、一台当たりの製造コストは非常に高くなります。
さらに、昨今は装置を構成する部品一つひとつを調達するコストも高騰しています。代替え品もないため、半導体を製造する装置の価格は高額にならざるを得ません。
中古半導体製造装置のメリットは?
半導体製造の世界では最先端技術の追求がクローズアップされがちですが、すべての半導体が最新鋭のプロセスで製造されるわけではありません。特に、スマートフォンやPCなどのハイエンド製品に搭載されるものとは異なり、家電製品や自動車、産業機器などに使われるセンサーやアナログICといった分野では、先端プロセスを必要としない成熟した技術が広く活用されています。
このような製造ラインでは、中古半導体製造装置の活用が非常に重要な戦略として位置づけられています。これは、以下のような多岐にわたるメリットをもたらすからです。
資源の有効活用
半導体製造装置は非常に高価であり、最新のプロセスへと移行する際には、それまで使われていた装置が遊休状態となることがあります。これらの遊休設備を再利用することは、単にコスト削減に留まらず、資源の有効活用という観点からも大きな意味を持ちます。
スクラップにされるはずだった装置が再び生産ラインで活躍することで、新たな装置の製造に必要な資源やエネルギーの消費を抑えることができ、サステナビリティ(持続可能性)への貢献にも繋がります。
短期間での生産能力増強
半導体市場の需要は常に変動しており、特定の製品に対する需要が急増することもあります。新品の製造装置を導入する場合、発注から納品、そして設置・調整までには非常に長い時間がかかります。しかし、中古装置であれば、比較的短期間での調達が可能です。
これにより、メーカーは市場の急な変動にも柔軟に対応し、必要なタイミングで迅速に生産能力を増強することができます。これは、市場機会を逃さないための重要な経営戦略となります。
設備投資額の抑制と経済的なメリット
新品の最先端半導体製造装置は、一台あたり数億円から数十億円、時にはそれ以上の莫大な投資が必要となります。一方、中古装置は新品に比べて大幅に安価で入手できるため、設備投資額を劇的に抑制することができます。これにより、特に以下のような経済的メリットが生まれます。
- 初期投資の削減…新規事業の立ち上げや既存ラインの増強において、初期の設備投資負担を軽減することが可能です。
- 投資回収期間の短縮…投資額が少ないため、比較的短い期間で投資を回収できます。
- 研究開発や新技術への再投資…設備投資に回す資金をおさえて、その分を新しい技術の研究開発や次世代プロセスの導入準備など、企業の将来的な成長に向けた分野に再投資する余地が生まれます。
- 多品種少量生産への対応…特定の製品を少量生産するラインや、ニッチな市場向けの半導体製造において、柔軟かつ経済的に対応することが可能です。
これらのメリットがあるため、中古半導体製造装置の活用は、多くの企業で注目されています。
まとめ
半導体の製造は、素材であるシリコンの精製から始まり、超高純度化、単結晶化といった工程を経て、複雑な製造装置によって完成します。その製造装置には、高スループット・省スペース・高精度など、非常に高度な機能が求められます。
また、コストや供給の柔軟性といった点から、中古装置の需要も高まっており、資源の有効活用や投資負担の軽減といったメリットもあります。今後も半導体産業の発展とともに、製造技術や装置の進化は続いていくでしょう。