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半導体露光装置とは?解像度の仕組みや価格を解説

現代のデジタル社会において、半導体は私たちの生活に不可欠な存在です。スマートフォンから家電、自動車、そしてAIに至るまで、あらゆる電子機器の頭脳として機能しています。この半導体チップが誕生するまでの過程は、まさに「モノづくり」の極致であり、その中でも特に重要な役割を果たすのが「露光」と呼ばれるプロセスです。

露光は、髪の毛の太さの数千分の一という、想像を絶する微細な回路パターンをシリコンウェーハに正確に転写する技術を指します。この驚異的な精度を実現するのが、「人類史上最も精密な機械」と称される半導体露光装置です。

本記事では、半導体製造の根幹をなす露光の基本から、価格と運用コスト、導入ポイントに至るまで、多角的に解説していきます。

露光とは?

半導体製造において、露光とはチップの回路パターンをシリコンウェハーへ正確に転写するプロセスを指します。そのプロセスは、下記の通りです。

露光の準備とプロセス

露光工程に入る前には、まずウェハ上に回路の基盤となる薄膜を形成します。この薄膜の上に、レジストと呼ばれる感光性の薬液が均一に塗布されます。このレジストは光に反応する性質を持っており、露光後の変化に必要不可欠です。

準備が整ったウェハに対し、回路パターンが描かれたマスクを介して光を照射します。マスクのパターンに沿って光がレジストに当たると、レジストは化学反応を起こします。

露光後のプロセスとリソグラフィ

露光後のウェハは、次の現像工程へと進みます。現像では、露光された部分、あるいは露光されていない部分のレジストが除去され、その下の薄膜表面が露出します。

さらに、露出した薄膜に対してエッチングという工程が行われます。これは、不要な部分の薄膜を削り取り、回路パターンを物理的に形成する作業です。

この一連の露光、現像、エッチングのプロセスは、まとめてリソグラフィと呼ばれ、半導体製造において非常に高度な技術が要求される工程です。このリソグラフィによって、微細で複雑な回路パターンがウェハ上に忠実に再現され、高性能な半導体チップが生まれるのです。

露光装置とは

露光装置とは、基板上に微細なパターンを焼き付ける装置を指します。半導体や液晶ディスプレイなどの製造に必要不可欠な技術であり、様々な分野で使用されています。ここでは、露光装置とその進化について解説します。

縮小投影露光方式への移行

1980年代以前は、フォトマスクのパターンをそのままのサイズで転写する等倍露光方式が主流でした。しかし、回路の微細化が進むにつれて、より高精度な転写が求められるようになっていきます。そこで登場し、主流となったのが縮小投影露光方式です。

この方式では、投影レンズを用いてフォトマスクのパターンを通常4分の1から5分の1に縮小し、その縮小されたパターンをウェハの露光エリアに転写します。

ステップ&リピート方式(ステップ)

g線やi線といった光源が使われていた世代の主要な露光装置が、ステップ&リピート装置(ステッパ)です。

ステッパは、露光エリアを正方形の小さな区画に分割し、光を一度照射した後、ウェハを移動させて次のチップ領域に露光を繰り返す方式です。あたかもスタンプを押すように、一区画ずつパターンを転写していくのが特徴です。現在でも、特定のプロセスや研究開発用途において、その高精度性が評価され、活用されています。

しかし、ウェハの大口径化やチップの大規模化が進むにつれて、小区画ごとの露光では時間がかかるという課題も出てきました。これが、より広い範囲を一括で露光できるステップ&スキャン方式の発展へとつながっていきます。

ステップ&スキャン方式(スキャナ)

一方、ステップ&スキャン装置(スキャナ)は、より高度な露光方式として発展しました。スキャナは、細長いスリット状の露光エリアを横方向に走査(スキャン)しながら光を照射します。この方式はステッパよりも一度に露光できるエリアが広く、大容量メモリや大規模な集積回路の製造に特に有効です。

スキャナの大きな特徴は、レンズ開口数を大きくしやすい点です。これにより、より高い解像度での露光が可能となり、微細な回路パターンの形成に貢献しています。このため、KrF(フッ化クリプトン)エキシマレーザー以降のリソグラフィ装置では、スキャナ方式が主流となっています。

露光装置の解像度

半導体デバイスの性能向上に不可欠な微細化は、露光装置の解像度に大きく依存します。解像度とは、回路パターンをどれだけ細かく刻めるかを示す指標であり、これが高いほど、より複雑で高性能なチップの製造が可能です。解像度を高める主な技術は、下記のようなものがあります。

レンズの開口数を高める

開口数(NA)は、レンズがどれだけ多くの光を取り込み、狙った場所に集中させられるかを示す指標で、レンズの分解能を表します。NAが大きいほど、より微細な加工が可能となり、解像度が向上します。

かつては、マスクとウェーハを密着させて等倍露光するコンタクト方式が使われていましたが、微細化の要求が高まるにつれて、実寸よりも大きく作成したパターンを投影レンズで縮小して露光する手法が主流になりました。

このため、投影レンズには、光の収差を極限まで抑え、滑らかなレンズ面を持つ高い精度が求められます。レンズの収差が小さければ小さいほど、NAを高め、高い解像度を実現できるのです。

波長を短くする

解像度は光の波長に比例するため、より短い波長の光源を用いることで、微細なパターン形成が可能になります。このため、露光装置の光源は、半導体技術の進化とともに短波長化が進められてきました。

次世代の光源として開発されたのがEUV(極端紫外線)光です。EUVは13.5nmという極めて短い波長を利用することで、劇的な解像度向上を実現し、7nm以下の微細加工を可能にしています。

プロセス係数を下げる

露光プロセス係数(k1 factor)とは、半導体製造における露光プロセスにおける解像度を左右する重要な係数です。具体的には、レジスト材料の特性やプロセス条件によって決まり、値が小さいほど高解像度化が可能です。この値は、以下に挙げる要素が影響を与えます。

  • レジスト材料の性能…光を当ててパターンを形成する感光性樹脂であるレジストの能力が高いほど、解像度も向上する。
  • マルチパターニングにおける重ね合わせの誤差…複数の露光工程を重ね合わせて微細なパターンを作り出す際、正確な重ね合わせができないと、解像度に大きな影響を与えてしまう。

こららの要素を改善することで、解像度を高めることが可能です。

露光装置の価格

半導体露光装置は「人類史上最も精密な機械」と称されるほど卓越した性能をもつため、非常に高額です。半導体チップの微細化が進むほど、露光装置に求められる精度は高まり、それに伴って価格も跳ね上がります。

露光装置の価格は、使用する光源の波長に大きく左右されます。波長が短いほど微細なパターンを形成できるため、装置の価格も高くなる傾向にあります。

現在までの主要な光源と、それに対応する露光装置の価格相場は以下の通りです。

  • i線(高圧水銀灯、波長365nm)…約4億円
  • KrFエキシマレーザー(波長248nm)…約13億円
  • ArFドライエキシマレーザー(波長193nm)…約20億円
  • ArF液浸エキシマレーザー(波長193nm、液浸技術により高解像度化)…約60億円
  • EUV(極端紫外線、波長13.5nm)…約200億円

特に最先端のEUV露光装置は、その技術的な複雑さと精密さから、一台あたり数百億円という破格の値段がつけられています。さらに、次世代のEUV露光装置は、より微細な加工を行うために大型のレンズを搭載する必要があり、その量産機の価格は約480億円にもなると予測されています。

高精度な装置は必然的にコストも高くなるという傾向が、露光装置においては特に顕著に表れています。このような巨額の設備投資は、半導体メーカーにとって大きな経営的負担となっています。

露光装置にかかるランニングコスト

半導体の露光装置は、購入費が高額なだけではありません。そのほかにも、さまざざまなランニングコストが発生します。

メンテンナンスと保守費用

高精度な装置は、常に最適な状態で稼働させるために定期的なメンテナンスが不可欠です。専門技術者による精密な点検、調整、そしてレンズのクリーニングやキャリブレーションを含む部品交換などが頻繁に求められます。

特に、EUV露光装置のような複雑な最先端装置では、その複雑さゆえに保守費用が極めて高額になる傾向があります。

消耗品および交換部品のコスト

露光装置は、運用中に多くの部品が消耗します。代表的なものとして、光源(ランプ、レーザー部品など)やガス供給システムのフィルター、そして露光時に使用する感光性材料であるレジスト、パターンを転写するための精密なマスクなどが挙げられます。

これらは使用状況に応じて定期的に交換が必要であり、運用期間中に継続的に発生する費用として、トータルコストに大きな影響を与えます。

エネルギーおよび環境維持費

高出力の光源や精密な冷却システム、大型の光学系を稼働させるためには、大量の電気を使わざるをえません。

さらに、装置が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、クリーンルームにおける厳格な環境管理(温度、湿度、振動対策など)が求められ、これに伴う電気代や空調費などのランニングコストも大きな割合を占めています。

トレーニングコスト

これらの高度な装置を正確に操作・維持・管理するためには、熟練した専門技術者が不可欠です。

オペレーターの育成、最新技術の習得のための定期的なトレーニング、そして装置の操作や保守、メンテナンスに必要な人員にかかる人件費も、ランニングコストの重要な一部となります。

露光装置を導入するポイント

半導体製造は、露光プロセス単独で完結するものではなく、複数の複雑な工程が連携して成り立っています。そのため、露光装置の導入や運用においては、工場全体の生産性を最大化する視点が不可欠です。導入にあたっては、次の2点がポイントとなるでしょう。

全工程の生産能力を最適化する

他の製造工程の処理能力が低いにもかかわらず、露光装置だけを最新鋭にしても、全体の生産性は向上しません。高性能な露光装置がウェーハを高速で処理しても、次の工程で処理しきれずに滞留してしまい、ボトルネックが生じる可能性があるんです。これは、せっかくの高性能装置が宝の持ち腐れになるだけでなく、生産ライン全体の効率を損なうことにもつながります。

重要なのは、半導体製造ライン全体の生産能力を総合的に把握し、各工程の生産能力がバランス良く連動するように設備投資を計画することです。 特定の工程だけを強化するのではなく、すべての工程がスムーズに流れるようにすることで、工場全体のスループットを最大化できます。

品質と導入コストのバランスを見極める

半導体露光装置は非常に高額です。そのため導入に際しては、目標とする品質レベルと投資コストが見合っているか、慎重に検討する必要があります。

たとえば、必要以上のハイスペックな装置を導入してしまうと、その高額な初期投資が将来の売上に見合わず、結果的に採算が合わない状況に陥るリスクもあります。

賢明な投資判断とは、実際に求められる半導体チップの品質と、そこから得られる収益に見合った設備を選択することです。 最高の技術を追求することも重要ですが、同時に経済的な合理性を追求することが、長期的な視点での生産性向上には不可欠と言えるでしょう。

まとめ

本記事では、半導体製造の根幹である露光プロセスと、その主役である露光装置の進化を解説しました。露光は、回路パターンをウェーハに転写するリソグラフィの中心であり、薄膜形成からエッチングまでの一連の精密な工程で成り立っています。

露光装置は、等倍から縮小投影露光へ、そしてステップ&リピートからステップ&スキャン方式へと進化し、微細加工を可能にしました。解像度向上の鍵は、「レンズの開口数」「波長の短縮」「プロセス係数(k1)の低減」の3点に集約され、EUV光導入などで技術革新が進んでいます。

しかし、これらの高性能化は、装置の高価格化と莫大なランニングコストを招きます。そのため、導入には全工程の生産バランスやコストとの経済合理性が不可欠です。露光技術の絶え間ない進歩が、半導体ひいてはデジタル社会の未来を支えています。

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