私たちの生活に欠かせない半導体は、目覚ましい技術発展を遂げてきました。トランジスタの発明から集積回路(IC)の開発、そして「ムーアの法則」に示される指数関数的な進化は、コンピュータの小型化・高性能化を加速させ、今日のデジタル社会の基盤を築いています。
日本もまた、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、トランジスタラジオの発売や画期的な技術開発を通じて半導体大国へと躍進。一時期は世界の中心となりました。
本記事では、この半導体の歴史を深く掘り下げるとともに、現在直面している課題、そしてIoT、AI、6G通信といった新たな技術分野での将来的な展望について解説します。日本の半導体産業が今後、世界の中でどのような立ち位置を確立していくのかについても考察していきましょう。
半導体の歴史
私たちの生活に欠かせない半導体は、100年にも満たない間にめまぐるしい技術の発展を遂げました。ここでは、歴史の中で欠かせないポイントを3つに分けて解説します。
トランジスタの発明
現代社会の基盤を支えるトランジスタの原型は、1904年にジョン・フレミングがエジソン効果を応用して開発した2極真空管までさかのぼります。その後、増幅機能を持つ真空管が次々と登場し、電話や無線、さらには初期のコンピューターにまで広く利用されました。
しかし、1946年に発表された世界初の電子計算機「ENIAC」は、真空管を大量に使用したデジタルコンピューターであり、その巨大なサイズと莫大な消費電力から実用性に課題を抱えていました。
転機が訪れたのは1947年、アメリカのベル研究所でジョン・バーディーンとウォルター・ブラッテンがトランジスタを発明したことです。さらに翌1948年には、ウィリアム・ショックレーが接合型トランジスタを発明し、特許を申請しました。この画期的な開発に貢献した3名は、1956年にノーベル物理学賞を受賞しています。
真空管から小型の半導体へと徐々に移行したことで、技術開発は飛躍的に進みました。手のひらサイズの携帯ラジオが開発されたり、コンピューターが目覚ましい進化を遂げたりと、様々な製品が劇的に進歩していったのです。
集積回路の開発
1958年にはジャック・キルビーが、そして1959年にはロバート・ノイスが、それぞれ独立して集積回路(IC)を開発しました。ICは、トランジスタやコンデンサなどの複数の半導体素子を、たった一つのシリコン基板上に組み込んだ画期的な電子部品です。
ICの登場は、デジタル機器産業に革命をもたらしました。電子機器の小型化や、製品の大量生産を可能にし、私たちの生活に深く浸透する道を拓いたのです。例えば、ICを使用したデジタル機器の代表例である電卓は、1960年代に小型化が進み、1970年代には広く普及するまでに至りました。
ムーアの法則の発表
ムーアの法則とは、半導体最大手インテル社の共同創業者、ゴードン・ムーア氏が提唱した経験則です。これは「半導体集積回路の集積率が18ヶ月(後に24ヶ月に修正)で2倍になる」という技術革新を示しました。
ここでいう「半導体の集積率」とは、技術的には「同じ面積の半導体ウェーハ上に、トランジスタ素子を構成できる数」を指します。つまり、ムーアの法則が示すのは、半導体の微細化技術の進歩により、半導体の最小単位であるトランジスタを、同一面積内で18ヶ月ごとに2倍の数だけ作れるようになるということです。
たとえば、製造当初100個だった面積当たりのトランジスタ数は、1.5年後には200個、3年後には400個と、指数関数的に増加していきます。
このトランジスタ数の増加が、半導体技術にどのような影響を与えるのかは、性能面と価格面という2つの側面から説明できます。1965年の提唱以来50年間、この法則に従うかのように半導体集積回路の集積率は増進を続け、性能と価格の両面で目覚ましい進化を遂げた半導体デバイスが次々に開発されました。これにより、現在の私たちの快適な生活が実現していると言っても過言ではありません。
日本における半導体の歴史
戦後、日本でも半導体製造が始まり、高度経済成長とともに一大産業へと発展しました。デジタル機器関連産業が世界中で伸びる中、日本はいかにして半導体技術の発展を遂げたのでしょうか。ここでは、その歴史を3つの時期に分けて解説しましょう。
1950~1970年代
日本半導体産業の幕開けは、1955年に東京通信工業(現ソニー)がベル研究所からトランジスタ製造特許を取得し、日本初のトランジスタラジオを発売したことに始まります。このトランジスタラジオの大量生産研究を通じて、1957年には江崎玲於奈氏がトンネル効果を応用したダイオード(エサキダイオード)を発明し、1973年にノーベル物理学賞を受賞する快挙を成し遂げました。
また、同時期の1950年代には、西澤潤一氏が半導体レーザー、PINフォトダイオード、光ファイバーといった光通信の三要素となる技術を世界に先駆けて考案しており、日本の基礎研究力の高さを示しています。
高度経済成長期の1960年代には、半導体製造メーカーが次々と誕生し、電卓用集積回路を中心に半導体を使用した独自の電子機器の製造が盛んになりました。この時期の技術と品質向上への取り組みが実を結び、1970年代にはメモリチップやマイクロプロセッサなどの高度な半導体製造技術を確立。日本は国際競争力を飛躍的に高め、世界の半導体シェアの約半分を占めるまでに躍進し、1980年代後半には世界の売上ランキングトップ10に日本企業が6社入り、トップ3を独占するほどでした。
この成功の一因として、テレビやオーディオなどの家電製品分野における国内メーカー間の激しい競争が挙げられます。これにより、家電製品に使われる半導体の開発も積極的に進められ、高品質で信頼性の高い製品が数多く生み出されました。
1980年代~現代
このような経緯から、日本半導体産業における国際的なシェアは最盛期に比べ約5分の1に縮小したものの、半導体製造技術においては現在でも世界をリードする高い技術力を誇っています。
また、半導体素子や集積回路の製造に不可欠なレジスト(感光材)や各種プロセス薬液、そして超純水を提供する優秀な化学メーカーやプラントメーカーも日本に多数存在し、いずれも世界的に高いシェアを維持しています。
このように、半導体産業における国際的なシェアは変化したものの、その根幹を支える製造技術、材料、そして装置の分野において、日本は現在でも揺るぎない高い競争力を持っているのです。
半導体の課題と今後の展望は?
ここまで、半導体における歴史を解説しました。私たちの生活に欠かすことのできない半導体には、今後解決しなければならない課題があります。次は、現状での課題と今後の展望について解説しましょう。
半導体利用の課題
現在、半導体の利用は拡大の一途を辿る一方で、社会情勢の悪化に伴う供給量の低下により、世界的な半導体不足が発生しました。これにより、半導体素子の安定供給がいかに重要であるかが改めて浮き彫りになっています。
しかし、近年ではスマートフォンやタブレットの需要が一時的に低迷し、多くの半導体製造工場の稼働率が上がったことで、一時的な供給過多と低価格化が進む可能性も指摘されています。これが日本の半導体業界のさらなる衰退を招くという懸念も存在します。
将来的な展望
集積回路におけるプロセスルールの微細化が進むことで、コンピューターの小型化・高性能化は加速しています。これにより、情報機器に留まらず、あらゆるものにコンピューターを組み込むことが可能になっています。
特に、今後はIoT(モノのインターネット)化の進展により、家電製品はもちろん、現在は電子化されていない家具やメガネなどの装飾品に至るまで、あらゆるものに電子部品が組み込まれると予想されています。これにより、半導体の必要性は飛躍的に高まるでしょう。
6G通信、AI、自動車産業などの新たな分野での需要が大きく増加すると見込まれており、これらの新技術の発展に伴い、半導体の開発と使用は一層加速すると予測されます。
また、半導体業界においても、デジタルトランスフォーメーション(DX)化は急速に進んでいます。シミュレーション技術の強化により施策回数の削減や、ビッグデータ解析による生産性の向上。さらにロボットや自動配送システムによる人で作業の削減などが期待されています。
半導体産業における今後の日本の立ち位置
日本の半導体産業は、最盛期に比べ国際的なシェアは縮小したものの、依然として強みを持つ分野があります。特に、IoT関連技術に必要なセンサー技術においては世界的な競争力を保持しています。自動車の安全運転支援システムや、イメージセンサーによる高画質な画像処理などは、その代表例です。
さらに、半導体製造装置、特にリソグラフィ装置やエッチング装置などの高精度技術においては、日本は揺るぎない強みを持っています。これらの製造装置は世界の半導体メーカーにとって不可欠であり、日本の技術力が国際的に高く評価されている証拠です。
日本がこれらの強みを活かし、IoT関連技術や製造装置技術という「時流」をうまく捉えることができれば、今後も世界各国を相手に半導体産業の分野で活躍できる可能性は十分にあります。
まとめ
本記事では、半導体の誕生から現代に至るまでの歴史と、今後の展望について解説しました。真空管からトランジスタ、そして集積回路(IC)へと技術が進化し、「ムーアの法則」に象徴される集積率の飛躍的な向上が、デジタル機器の小型化・高性能化と普及を牽引してきました。
日本においては、世界の半導体シェアの約半分を占めるほどの躍進を遂げました。日米半導体協定などで一時的にシェアを落としたものの、現在でも半導体製造装置や材料分野では高い世界シェアと競争力を維持しています。
今後、半導体はIoT、AI、6G通信、自動車産業といった分野でさらに需要が拡大し、DX化によって生産性向上が図られることが期待されています。半導体の進化は止まることなく、私たちの未来を創造する基盤であり続けるでしょう。